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大阪地方裁判所 昭和35年(行)28号 判決

原告 柳田祥作

被告 大阪国税局長 外一名

訴訟代理人 樋口哲夫 外三名

主文

原告の昭和三〇年度ないし同三二年度の所得金額について、被告東成税務署長が昭和三四年二月三日になした各更正処分のうち、並びに右各更正処分に対する原告の審査請求につき、被告大阪国税局長が昭和三五年三月八日になした各審査決定のうち、昭和三〇年度につき二〇七、三四一円を同三一年度につき二〇九、五六〇円を、同三二年度につき二四五、五四〇円を各越える部分はこれを取消す。

原告その余の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担、その余を被告等の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、請求原因事実中、昭和三〇年ないし同三二年(以下本件各年度という)当時における原告の店舗の広さ、業態右各年度の所得額を除き当事者間に争いがない。

二、被告等は、原告は肩書地において、約六坪(一九、八平方米)の店舗において、小料理業を営んでいたものであると主張するので判断するに、〈証拠省略〉を綜合すると、右各年度における原告の店舗は、間口二間二尺弱、奥行二間の約四坪七勺であつて、うち五勺程度は押入と段梯子であるから、店舗の実面積は約四坪(一三、二平方米)であり、その中にカウンター、腰掛六脚、畳間(間口一間、奥行四尺)を備えていたことが認められる。次にその業態については、原告も自認するとおり、同人の本件各年度の売上品目の構成割合は、酒類、小鉢物が約八〇%を占め、残り二〇%が丼、うどん類であつて酒類、小鉢物の売上が圧倒的に多く、また既に述べたとおりの店舗の構造等をも併せ考えると、原告の業態は普通小料理業(いわゆるスタンド)と解するのが妥当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三、被告等の推計の可否、

被告等は、調査の結果、原告は(i)売上仕入に関する原始記録を保存せず、(ii)現金出納簿の残高に赤字の記載があり(iii )且つ記帳洩れも存する、等その帳簿の記載は真実を真正に記録しているとは認められないので、それに基づく原告の確定申告は到底採用出来ないため原告の所得額を推計により認定したもので本件各処分は違法ではないと主張し、原告はこれを争うので、まずその推計計算が許される場合であるか否かにつき判断する。右被告等が原告帳簿の正確性につき指摘する諸点のうち(i)原告は売上帳、金銭出納簿及び仕入帳を備えつけてはいたが、売上、仕入に関する原始記録(売上伝票、請求書、仕入伝票及び領収書等)を保存しておらず、(ii)昭和三一年五月一〇日の現金出納簿の差引残高欄が赤字になつていたこと、(iii )訴外日野商店に対する昭和三〇年七月二日、同年一〇月三一日の各一〇、〇〇〇円の支払が記帳洩れとなつていたことはいずれも原告の自認するところ、原告は、(i)原告のような小規模な営業では被告等の要求するような原始記録の作成、受領、保存は殆んど不可能であり、従つてこれを備えつけず、また被告署長は、原告等に青色申告の方法についての説明会の際「伝票をくれない商品は一括記入でよい、また売上は日々の売上合計(銭函勘定)を記帳すればよい」と説明したので、原告はこれに従い、仕入帳、売掛帳及び日々の売上表等の記帳を行つていたのであつて、かような記帳方法はひとり原告のみならず同業者一般に行われているところであり、(ii)の昭和三一年五月一〇日の現金出納簿の差引残高の赤字は、客から受領した小切手を右出納簿に記入せず翌日銀行に入金したために生じたのであり、(iii )は原告の息子柳田健が立替払いをしていたのを記帳し忘れたものであつて、これらの事実をもつて、原告の前記帳簿の正確性を否定するを得ず、従つてこれを無視して直ちに推計課税の方法によるべきでないと主張するのであるが、原告のような小規模な経営においては、原始記録の作成、受領、保存が一般に煩しいことは認められるけれども必ずしも不可能とはいいえず、また被告署長が同署員をして、伝票をくれない商品は一括記入でよく、売上は日々の売上合計を記入すればよいと説明させたことを認めるに足る証拠は全くない。仮に右のごとき趣旨の説明ないし指導があつたとしても、それは、伝票等の原始記録を作成受領しない場合には、それはそれで仕方がないということであつて、これを全く保存せず、受領した原始記録までも破棄して差支えないという趣旨とは解されないのみならず原告がこれに従つて原始記録の保存をしない場合は、これに代るべき正確な帳簿の記載が要求せらるべきところ、原告の全立証をもつてしても、原告がその点において欠くることがなかつたとは認められず、かえつて後記認定のとおり原告はその点において欠けるところがあつたのであるから、本件の場合が原始記録を保存しなかつたことが許容されるか否かの判断は原告帳簿の正確性の判断に何らの影響をなすものではない。よつてこの点に関する原告の主張は理由がない。次に現金出納簿の差引残高が赤字となつていたことについての原告の主張は、これに沿う同本人尋問の結果(第一回)が存するも、右は、〈証拠省略〉を綜合して認められる、原告の当座勘定出入記入表の昭和三一年五月一〇日及びその前後数日には、右小切手で預金されたことがないという事実に照して直ちに措信しえず、他に原告の右主張を認めるに足る証拠はない。また訴外日野商店に対する支払の脱漏の点に関する原告の主張事実は、これを認めるに足る証拠はなく、他に納得のいく説明は得られない。そして〈証拠省略〉を綜合すると、現金出納簿において、一昭和三〇年一一月二一日の残高が赤字となつていることが窺われるところである。更に、原告は昭和三一年三月三一日から同年四月二日迄と同年一〇月五日から同月七日迄の各残高が赤字となつていることを自認するが、本来金銭出納簿はその性質上赤字となることはあり得ないのみか、原告の右赤字の原因が借入金により生ずるのか、売上の記帳もれにより生ずるのかも判然としない。

以上、被告等の指摘する様に原告の現金出納簿、仕入帳、売上表等の諸帳簿が原始記録の裏付けを欠き、又記帳の脱漏等が伺われる点において、その正確性には疑いを抱き得るところであるが、さらに原告の帳簿には本件証拠調の結果においても次の様な具体的な瑕疵が見出される。即ち、

(1)  〈証拠省略〉によると、原告の右現金出納簿の昭和三〇年一一月二一日及び同三一年五月一〇日の残高欄は、前認定のごとく赤字であるにも拘らず、黒字となつており、更に記帳順序も一定せず例えば甲第八号証の一の昭和三〇年度の現金出納簿の二月一日の次に一月三一日の記載が、甲第八号証の昭和三一年度の現金出納簿の五月二日の次に四月二一日の記載が補充されている等の事実が認められる。

(2)  〈証拠省略〉を綜合すると、(i)昭和三〇年度の現金出納簿の記帳では、昭和三〇年五月一七日訴外株式会社住友銀行今里支店に一二、〇〇〇円が項け入れられた筈であるのに、原告の右支店当座勘定出入記入表によると同月一三日に預け入れられており、(ii)右現金出納簿の記帳では昭和三〇年一一月一七日に一三、〇〇〇円が前記今里支店の預金から引出されているのに、右当座勘定出入記入表にはさような事実は全く認められず、(iii )また右現金出納簿の記帳によると昭和三〇年一一月二一日前記今里支店に一〇、〇〇〇円の預金がなされているはずであるのに右当座勘定出入記入表によるとさような預金のなされた事情は全く見当らず両帳簿の間には多くりくい違いの存することが認められる。そして原告は(i)については、右現金出納簿の記帳の誤りであること、(ii)は昭和三〇年一二月一七日に引出されたものであること、(iii )は同年一〇月一九日に一四、〇〇〇円入金したのを現金出納簿には同年一一月二一日に一〇、〇〇〇円入金したごとく記帳したのであつて、以上いずれも原告の記帳の誤りであることを自認するところである。

(3)  〈証拠省略〉を綜合すると、原告の売上表の記載金額と現金出納簿の売上金額とは当然一致すべきであるにも拘らず若干の齟齬が認められる(例えば現金出納簿の昭和三〇年一月一四日の売上(三、〇〇〇円)が売上表では脱落し、同日欄に現金出納簿の一五日の売上が記載され以下一七日迄、一日づつ記載がずれており、更に一八日の売上が現金出納簿では二、四〇〇円であるのに売上表では三、〇〇〇円と記載されていること、また昭和三一年一月一一日の売上が現金出納簿では一、一〇〇円であるのに売上表では二、〇〇〇円と記載され、昭和三二年二月五日の売上が現金出納簿には記入されていないのに売上表では二、五〇〇円と記載されていること等)。

(4)  〈証拠省略〉も既述のとおりの不正確な現金出納簿、売上表に基いて作成ざれたものであるばかりかその内容においても計算の誤りが見られ(例えば、昭和三二年度の光熱費四八、六八二円のうち、その十分の七を必要経費として、これを三四、七七〇円と計算しているが、右は明らかに三三、〇七七円の誤りである)これまた正確なものとはいいがたい。

以上見たとおり、原告の売上表、仕入帳就中現金出納簿等は、これを裏付けるべき原始記録の作成、受領、保存が殆んどなく、また多くの誤記、脱漏があつて到底正確なものとはいいがたく、また貸借対照表、計算書等も同様に不正確であり更に右帳簿の記載の脱漏、誤記等について原告が納得のいく理由を示さずその補正も殆んど不可能であると認められる本件においては、被告等が、原告の本件各年度の所得につき推計方法により所得を算定したことは妥当であつてこの点において被告等の処分に何らの違法はないといわねばならない。

よつて以下被告等の推計の合理性の存否について遂次検討する。

四、被告等の計算

(一)  売上金額

(1)  酒類の売上高

被告等主張の事実中、本件各年度の二級酒、合成二級酒、焼酎の使用数量及び売上高、昭和三一年度のビール大ビンの使用数量、昭和三〇、三一年度のビール大ビンの単位当り売価延てはその売上高及び本件各年度の各酒類売上高(並びに売上合計額)を除き当事者間に争いがない。

(イ) 自家消費について、

また本件各年度における原告の二級酒、合成二級酒及び焼酎の期首たな卸数量に当期仕入数量を加算し、期末丸な御数量を差引いた数量が被告等主張通りであることも当事者間に争いはなく、原告は、右使用数量中には、原告の自家消費分が含まれていると主張するので判断するに、原告本八尋問の結果(第二回)中には原告は仕入れた酒の幾分かを自己の飲酒又は贈答用のために費消した旨の供述が存するのであるがその数量については、原告本人の尋問の結果をもつてしてもこれを明確にすることは困難であるし他に原告の自家消費分を認めるに足る証拠はない。

(ロ) 昭和三一年度のビール大ビンの使用数量について、右年度において、原告名義で仕入れられたビール大ビン数量が一、八三九本であることは、当事者間に争いがなく、原告は、そのうち七二本は訴外梅田フミの依頼により、便宜上原告名義で仕入れたにすぎたいもので、真実は右梅田の仕入分であると主張するので按ずるに〈証拠省略〉を綜合すると、当時訴外田中商店は、ビール大ビン五箱(一箱二四本入)以上の注文に対しては各注文主にサービスとして配達していたので、原告は、右配達のサービスを受けようと考え訴外梅田と相談の上、原告の仕入数量四八本(二箱)と右梅田の七二本(三箱)の注文を合せてこれを全部原告名で注文しうち右七二本を梅田に交付したことが認められる。そして右認定に反する証拠はない。そうすると、結局昭和三一年度における原告のビール大ビンの使用数量は前記一、八三九本から右梅田の仕入分七二本を差引いた一、七六七本となる。

(ハ) 昭和三〇、三一年度のビール大ビンの単位当り売価について、

被告等は右両年度のビール大ビンの単位当り売価はいずれも一三〇円であつたと主張し証人村上弘の証言によると、原告は村上に対し、本件各年度のうち昭和三二年度のビールの代価は一二五円であつたが、他の年度は一三〇円で販売したと述べたというのであるが、右証言は、本件各年度において原告はビール大ビン一本を午後五時迄はサービス料金の一一五円で、午後五時以降は一三〇円で販売し、その平均売価は一二五円であつたという原告本人尋問の結果(第二回)に照して措信しがたく、他に被告等の右主張を認めるに足る証拠はない。従つて右両年度のビール大ビンの単価は原告のいう一二五円と認めざるを得ない。

(ニ) そうだとすると、本件各年度における原告の酒類売上高は昭和三〇年度六二二、三五二円、同三一年度五八七、三七二円、同三二年度五七八、四二八円となり、その詳細は別紙酒類売上高表記載のとおりとなる。(但し、昭和三二年度は被告等主張のとおりであるから省略する)

(2)  丼類の売上高

(イ) 丼類の材料である米の仕入高は昭和三〇年度が八斗、同三一年度が九斗、同三二年度が一石であることは、当事者間に争いがない。

(ロ) よつて米一升あたりの丼の製造量延ては本件各年度の丼類の総製造量について判断するに、被告等はこれを一升につき一一、一杯と主張し〈証拠省略〉によるとその主張に沿う事実も存するが右はいわゆる大衆飲食店における平均によつたものであつて、原告店舗の具体的状況に即して述べられたものではないところ、原告本人尋問の結果(第二回)によると原告方はいわゆる大盛で一杯分約一合の米を使用したこと、従つて一升当りの丼の製造量は一〇杯であることが認められ他に被告の主張を裏付けるに足る証拠はない。

従つて、本件各年度における原告の丼類総製造量は、昭和三〇年度は八〇〇食、同三一年度は九〇〇食、」同三二年度は一、〇〇〇食となることは計数上明らかである。

(ハ) そして本件各年度の丼類の種類別売上構成割合、種類別単価及び加重平均法によつて求めた平均単価が五九円であることについては、当事者間に争いがない。よつて各年度における丼類の売上高は、昭和三〇年度は四七、二〇〇円、同三一年度は五三、一〇〇円、同三二年度は五九、〇〇〇円となる。

(3)  うどん類の売上高

(イ) 本件各年度のうどん玉の仕入量は、昭和三〇年度が九、〇〇〇食、同一一二年度が八、六〇〇食、同三二年度が六、〇〇〇食であることは当事者間に争いがない。

(ロ) 原告は、右仕入量のうち五%は腐敗等により廃棄したので仕入量の九五%が販売量であると主張するので判断するに、原告本人尋問の結果(第二回)によると、うどんの仕入量のうち年間少くとも五%は売残り等により廃棄したというのであるが、うどん類の日々の販売高が一定せず、従つて常に仕入量全部を販売しえないことのあるのは経験則上あり得るところであり、五%という数量もさして多量とはいいえないから右原告の主張は十分理由があり、これに反する証人村上弘の証言は措置しえず他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

そうだとすると本件各年度のうどんの販売量は、昭和三〇年度が八、五五〇食、同一三年度が八、一七〇食、同三二年度が五、七〇〇食となる。

(ハ) 本件各年度のうどん類の種類別売上樽成割合、種類別単価及び加重平均法によつて求めた平均単価はその中、昭和三〇、三一年度の素うどん、きつねううどんの単価(延いては両年度の平均単価)を除いてすべて当事者間に争いがない。

(ニ) 被告等は右両年度の素うどんの単価は二〇円、きつねうどんの単価は二五円であつたと主張するので判断するに、右主張に沿う乙第九号証の一、二(その成立については証人村上弘の証言により真正に成立したものと認められる)は、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第四号証及び同尋問結果(第一回)、証人仲村精一の証言等に照して容易に措信しえず、他に被告等の右主張を認めるに足る証拠はない。そうすると両年度における素うどん、きつねうどんの単価は、それぞれ原告のいう一五円及び二〇円と認めざるを得ない。

(ホ) よつて本件各年度のうどんの平均単価を加重平均法によつて求めると次表のとおりとなり、昭和三〇同三一年度は二二円五〇銭、同三二年度は二六円となることは計数上明らかである。

〈表 省略〉

(へ) よつて(ロ)のうどん総販売量に右(ホ)の平均単価を乗ずると、本件各年度のうどん類の売上高は昭和三〇年度は一九二、三七五円、同一三年度律一八三、八二五円、同三一年度は一四八、二〇〇円となる。

(4)  小鉢物の売上高

(イ) 小鉢物、うどん及び丼類の材料(但しうどん玉及び米を除く以下同じ)の本件各年度の仕入高、期首たな卸高、期末たな卸高、当期使用高については当事者間に争いがなく、原告は、被告主張の当期材料使用高のうちには原告が醤油のまま販売したものや、自家消費分が含まれていろから、これを差引いて小鉢物、うどん及び丼類の材料使用高を計算しなければならないと主張するので判断する。原告本人尋問の結果(第二回)によると、本件各年度においで、原告は、営業用として仕入れた醤油を一升につき五円ないし一〇円の利益を得て一ケ月に二、三本宛近所に販売したほか小鉢物、丼類及びうどん類の自家消費は各年六、〇〇〇円程度であるというのであるが、右供述はこれを否定する証人村上弘の証言に照して直ちに措信しがたく、他に原告の右主張を認めるに足る証拠はない。しからば本件各年度における原告の小鉢物、うどん及び丼類の材料使用高は、昭和三〇年が二八六、九三五円、同三一年度が二四六、三六四年、同三二年度が三〇二、九四五円というべきである。

(ロ) 右材料使用高中に占める小鉢物の材料高の割合

(A) 被告等は右材料使月高〇のうち八〇%が小鉢物の材料として使用されたと主張する。そして〈証拠省略〉を総合すると、村上弘が原告の収入等を調査した際、原告は材料中のねぎ、卵、油揚等は小鉢物以外のうどん、丼類等に使用し、その金額は全材料費の二割程度であると述べたということが窺える。しかしながら右の全材料費の二割程度ということは次の理由により真実に副い難い、即ち

(i) 今、仮に、うどん、丼類の材料費が被告主張通り二〇%であるとすると、本件各年度のうどん及び丼類の材料使用高合計額は一六七、二四九円となる。一ところで本件各年度のうどんと丼類の製造量合計は既に認定した如く二五、一二〇食であるから一食あたりの材料費(但し既述のごとく、うどん玉及び米を除く)は約六円六六銭弱とたる。

(ii) 〈証拠省略〉を綜合して認められる本件各年度の(うどん一人前の「だし」の材料費は四円七五銭であり、他の材料費は約八円であるからその合計一二円七五銭がうどん材料費(但しうどん玉を除く)となる事実に照し前記(i)の材料費六円六六銭は不当に少額であるばかりか既に認定した本件各年度のうどんの平均単価(昭和三〇、三一年度二二円五〇銭、同三二年度二六円)と〈証拠省略〉により認められる昭和三〇、一三両年度のうどん、そば小売業の差益率(昭和三〇年四二、四%、同三一年四二、二%)から求められる両年度のうどんの原価(但しうどん玉を含む全材料費)は約一三円となり右からうどん玉の原価四円五九銭(この金額については明らかに争わない)を差引くと八円四一銭となる事実に照しても前記材料費六円六六銭(これは既述のごとく、うどん、丼の平均原材料であるから、うどんのみでは更に低くなるものと考えられる)は低きに失するといわねばならず、結局前記の全材料費の二割程度ということは真実に副わないところである。他に被告等の前記主張を認めるに足る証拠はない。

(B) そうすると、本件各年度における右材料費から調味料費(醤油、味の素代等)一〇%と、うどん、丼類の材料費(但し、うどん玉、米を除く)を控除したものが小鉢物の材料費となることは、原告の自認するところである。そして、うどんの材料費(但し、うどん玉だし代を除く、以下同じ)が一人分七円五〇銭であることも原告の自認するところ、(うどん玉、調味料を除く材料費が右七円五〇銭より少額であるとの証拠はない)これを本件各年度のうどん販売量(四の(一)の(3) の(ロ)に乗ずると右各年度のうどんの材料費は、昭和三〇年度は六四、一二五円、同三一年度六一、二七五円、同三二年度四二、七五〇円となることは計数上明らかであり、また丼類の一杯分の材料費(但し米、調味料費を除く)が一八円五〇銭であることは原告の自認するところであるから、これを本件各年度の丼類販売量(四の(一)の(2) の(ロ)参照)に乗ずると本件各年度の丼類の材料費は、昭和三〇年度が一四、八〇〇円、同三一年度が一六、六五〇円、同三二年度が一八、五〇〇円となる。そうだとすると、本件各年度の小鉢物の材料費(但し既述のごとく調味料費を除く)は、昭和三〇年度が一七九、三一六円五〇銭、同一三年度が一四三、八〇二円六〇銭、同三二年度が二二、四〇〇円五〇銭となる。

算式 (うどん玉米を除く全材料費×うどん玉米調味料を除く材料費の割合)-(うどん販売量×うどん玉米調味料を除く材料費)+(丼販売量×米調味料を除く材料費)

昭和30年度{286,935円×(1-0.1)}-{(8,550食×7.5円)+(800食×18.5円)}= 179,316円50銭

昭和31年度{246,364円×(1-0.1)}-{(8,170食×7.5円)+(900食×18.5円)}= 143,802円60銭

昭和32年度{302,945円×(1-0.1)}-{(5,700食×7.5円)+(1,000食×18.5円)}= 211,400円50銭

(C) ところで小鉢物の原材料には、当然調味料が含まれるべきところ、乙第一一号証によると、小鉢物に使用される調味料費は小鉢物材料費の少くとも五%以上であることが知られるから、前記調味料費中、本件各年度の小鉢物に使用された調味料費は、昭和三〇年度が約九、四三七円七一銭(但し、銭未満切捨て以下同じ)、昭和三一年度が七、五六八円五五銭、昭和三二年度が約一一、一二六円三四銭となる。そこで右結果より、本件各年度の小鉢物の材料費を求めると、昭和三〇年度は一八八、七五四円二一銭同三一年年度は一五一、三七一円一五銭、同三二年度は二二二、五二六円八四銭となる。

算式 (小鉢物材料費(調味料費を除く小鉢物材料費)×小鉢物材料費中における調味料費の割合=小鉢物材料費

調味料費を除く小鉢物材料費+調味料費=小鉢物材料費

昭和30年度(179,316.5円×100/95)×5/100 = 9,437.71円

179,316.50円+9,437.71円 = 188,754.21円

昭和31年度(143,802.6円×100/95)×5/100 = 7,568.55円

143,802.60円+7,568.55円 = 151,371.15円

昭和32年度(211,400.5円×100/95)×5/100 = 11,126.34円

211,400.50円+11,126.34円 = 222,526.84円

(ハ) 小鉢物差益率

被告等は原告の小鉢物の平均売上価は使用材料費の二〇〇%、即ちその差益率は五〇%であると主張するので)判断するこの点に関する被告の主張を裏付ける証拠は(i)(証人毛利政男の証言及び(成立に争のない)乙第一四乃至一六号証(大阪国税局所得税課作成の商工庶業等所得標準率表)の各一乃至三においてスタンド式とされている業態の店舗における小鉢物の差益率が通例約五〇%であるとの部分及び前認定の原告の業態が右乙第一四乃至一六号証の一乃至三におけるスタンド式に一応相当する)と認められることと、(ii)〈証拠省略〉を綜合すると、地(理的条件、環境、店舗の規模類につき共通性のある東成区(原告店舗の所在地)近くの青色申告者から無作為に四名を抽出し、その所得類等を検討して、生野区鶴橋北之町二丁目二八一番地で小料理業(スタンド)を営んでいる訴外富永徳松を選び、同人につき小鉢物の荒利益(口銭)につき調査したところ、売価は材料原価の約二倍ないし二倍半で酒類(その差益率は通常小鉢物より低い)を含めた場合は商品全部を平均して原価の二倍即ち「おれはん」になること等の事実である。しかしながら(i)証人毛利政男の前記証言部分は、前記乙第一四ないし第一六号証の各一ないし三のスタンド式の店舗の全体の差益率(昭和三〇年度四二%、昭和三一年度四四%、昭和三二年度四四%)から、小鉢物類のそれを同人の頭(単なる勘)で割り出したもので、何ら納得のいく根拠に乏しいばかりか、同号各記載の差益率は同種営業の差益率の平均値を表するものにすぎないのであるから原告の差益率を推定するためのおおよその目安とはなりうるとしても特段の事情のない限り店舗の特徴(土地柄、規模、営業方針、客筋)等を考慮することなく直ちに右標準率記載の差益率をそのまま採用することは妥当でなく、また(iii )右富永の店は大阪環状線の鶴橋駅から多少離れた場末にあり、その客筋はいわゆる一現の客(即ち常連でない客)もすくなく、主に附近の住民等である点において原告の店と類似ないし共通した点が認められないでもないが、〈証拠省略〉を綜合すると、右富永の店は、同人とその妻のほか、サービス係として女子二名を使用し、その経営方針もいわゆる薄利多売でないことが認められ、他方原告の店では、原告とその妻の二人が(但し昭和三〇年度従業員一人を使用)営業に従事し薄利多売を営業方針としていることが認められ、両店はその営業方針及び営業規模の点において異ることが認められる。そうだとすると差益率にも当然差異のあることは見易い道理であるから、右富永の店の差益率が五〇%であることを理由に直ちに原告の差益率を五〇%と推定することも許されない。なお、被告等は、うどん及び丼類の平均材料原価と平均売価(単価)を比較すると後者は前者の約二二八%(即ち差益率は五六%強)となるから、それより差益率の高い小鉢物の差益率を五〇%と推定した被告の計算は正当であると主張するが、既に見たとおり右主張の基礎たるうどん玉及び米を除くうどん及び丼類の平均材料原価についての被告の推計は正当とはいいえず(従つてうどん玉及び米の原価をも含むうどん及び丼類の平均材料原価もまた正しいとはいい難い)、結局被告等の右主張も失当といわざるを得ない。因みに本件各年度のうどんの材料費は、被告等主張(原告も明らかに争わないところ)ではうどん玉一ケが四円五九銭で、これに前記うどん玉及び調味料を除く材料費(一人分)七円五〇銭を合計すると二円九銭となる。右と本件各年度のうどん販売価格(昭和三〇、三一年度は二二、五円、昭和三二年度二六円)を比較すると売価は材料費に対して、昭和三〇、三一年度では約一八七%、昭和三二年度で二一七%となる。また井の材料費は、被告等主張(原告も明らかに争わないところ)では米一合が約一四円(三年間の米の仕入高三八、二三五円を丼(一人前一合)の総販売量で除したもの)でこれに前記米及び調味料を除く材料費一八円五〇銭を合計すると三二円 五〇銭となりこれを丼の販売価格(各年度五九円)と比較すると売価は原価の約一八一%となるが、右うどん、丼の材料費には調味料の原価を含んでいないのであるから、右各利益率は更に低くなるものといわざるを得ないのでこの点から見ても被告等の前記主張は失当というべきである。そして他に原告の本件各年度の小鉢物の差益率を五〇%と認めるに足る証拠はない。そうして原告は、同人の本件各年度の小鉢物類の差益率を三七、五%(即ち売価は原価の一六〇%)であると自認しており、本件証拠調の結果によつてもこれを超える数値に至ることが認められないので、結局、本件においてはこれを右原告主張の三七、五%と認めねばならない。ようて結局原告の小鉢物の売上高は、昭和三〇年度が三〇二、〇〇六円七三銭(銭未満切捨て、以下同じ)昭和三一年度が二四二、一九三円八四銭、昭和三二年度が三五六、〇四 二円九四銭となることは計数上明らかである。

算式     小鉢物材料費        小鉢物売上高

昭和30年度 188,574.21円×(160/100)= 302,006.73円

昭和31年度 151,371.15円×(160/100)= 242,193.84円

昭和32年度 222,526.84円×(160/100)= 356,042.94円

(5)  以上の結果、原告の本件各年度における総売上高は次のとおりとなる。(但し、円未満切捨て)

〈表 省略〉

(二)  仕入金額

(1)  被告等主張の事実中、昭和三一年度における原告の訴外田中商店からの仕入高を除き、当事者間に争いがなく、右年度における原告の右田中商店よりの仕入量がビール大ビン四八本であつたことは既に認定(四の(一)の(1) の(ロ))したとおりであり、右大ビン一本当りの仕入額が一〇〇円であることは当事者間に争いのないところであるから結局同年度の右田中商店よりの仕入高は四、八〇〇円であり同年度における酒類仕入高は四七一、〇四二円となる(なお、原告は右仕入高を四七三、四四二円と主張するが、右は明らかに原告の誤算である)

(2)  そうすると、本件各年度の酒類、うどん玉、白米、その他の材料等の仕入金額は次のとおりとなる。

〈表 省略〉

(三)  売上原価

本件各年度にお竹る原告の期首、期末におけるたな卸高は当事者間に争いがなく、当期仕入高は右に認定したとおりであるから、本件各年度の原告の売上原価総額は、昭和三〇年度が八四五、四一四円、同三一年度が七六六、一一三円、同三二年度が八〇八、二四九円となる。

(四)  必要経費

原告の本件各年度の公租公課、水道料、光熱費その他の必要経費の合計額が、昭和三〇年度は一一一、一七八円、同三一年度は一〇三、一四八円、同三二年度は八九、六一一円であることは当事者間に争いがない(詳細は別表一ないし三の必要経費欄参照)。

(五)  雑収入

原告の本件各年度における雑収入が、昭和三一年度は三、二〇〇円、同三二年度は一、七三〇円であることは当事者間に争いがない。

(六)  総所得額

よつて原告の本件各年度における総所得額(右(一)と(五)の合計額から(三)、(四)を差引いた金額)は次表のとおりとなる。

〈表 省略〉

しかし、右認定は本件の証拠にあらわれたところによるのであるが昭和三一年度については原告はその売上金額一、〇七五、六二一円従つて、総所得額は二〇九、五六〇円と自から認めているのでこれに従うこととする。

五、結論

そうだとすると、被告等の本件各更正処分及び審査決定中、右総所得金額を超える部分は違法であり、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから右各処分及び決定は右金額を超える各違法部分につきこれを取消し、原告その余の請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 潮久郎 福井厚士)

酒類売上高表〈省略〉

収入計算書〈省略〉

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